INTERVIEW

難病患者の希望を繋ぐ。
―M&Aで実現した、理念と成長の両立―

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ファミリー・ホスピス株式会社 取締役 (旧:ノーザリ―ライフケア株式会社 代表取締役社長)小林 英一氏、ストライク小林

ファミリー・ホスピス株式会社 取締役 (旧:ノーザリーライフケア株式会社 代表取締役社長)
小林 英一氏

ノーザリーライフケア株式会社(札幌市)は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの難病患者や人工呼吸器使用者に特化した医療福祉施設を運営し、地域医療の最前線で貢献してきた。同社は後継者問題の解決を目指し、2022年4月、日本ホスピスホールディングスへ株式を譲渡。その後、同社の連結子会社であるファミリー・ホスピス株式会社(東京都千代田区)と合併し、M&A後の業績は着実な成長を遂げている。今回は、ノーザリーライフケアの創業者で、現在はファミリー・ホスピス株式会社の取締役を務める小林英一氏に、創業の理念からM&Aの経緯、そして今後の事業展望までを伺った。

ノーザリーライフケア株式会社
ご成約インタビュー動画

事業内容と強みについてお聞かせください。

ファミリー・ホスピス株式会社は住宅型有料老人ホームを運営しており、訪問看護事業所、訪問介護事業所の運営も行っています。特に、難病の方やがん末期の方を受け入れ、その方々の生活を安全・安心に担保できるようにサポートしています。
私は2015年に札幌市でノーザリーライフケア株式会社を設立、道内では数少ないALS等の難病・人工呼吸器使用の方々に対応できる施設を運営してきましたが、後継者問題の解決とともにさらなる事業の発展を図るため、2022年4月に日本ホスピスホールディングスに株式を譲渡しました。その後、2023年4月に同業のグループ会社であるファミリー・ホスピスと、同社を存続会社とする形で合併しました。

創業当時の想いと、ALSなど難病ケアに特化された理由をお聞かせください。

私がノーザリーライフケアを起業したきっかけは、1990年に在宅人工呼吸器が保険適用となったことでした。それまで人工呼吸器は病院でのみ使用されていましたが、在宅での利用が可能になったのです。当時、私は医療関係の仕事に従事しており、1992年に札幌で在宅人工呼吸器を使用している方のケアを担当することになりました。
在宅酸素療法は普及しつつありましたが、人工呼吸器を使用している方はまだ少数で、デイサービスの利用や施設への入居を拒否され、困難な状況でした。ご家族の負担も大きく、夜間交代でケアをされている状況を見て、会社に在宅酸素、在宅人工呼吸器の患者さんに特化したデイサービスとショートステイを併設したような施設を作れないかと提案し続けましたが、実現には至りませんでした。また、在宅酸素療法は0歳から始める方もいますが、その後の生活を考えると、小学校や中学校への入学など、様々な課題がありました。
私自身、未熟児センターやNICUに出入りしていた経験から、0歳から呼吸器をつけて生活する子どもたちの将来を案じていました。2012年に私自身ががんを患い、手術を受けた際、自分のやり残した仕事は、在宅酸素や在宅人工呼吸器を使用している方をサポートできる施設を作ることだと強く感じました。
そこで、会社を設立し、高齢者だけでなく、在宅人工呼吸器療法や在宅酸素療法を受けている方が、お風呂に入ったり、リハビリをしたりできるような施設を作ろうと考えました。

事業承継についての課題を感じ始めたきっかけをお聞かせください。

私が60歳を過ぎ、体調を崩したこともあり、このままでは入居者の方々、特に人工呼吸器をつけている方や難病を抱える方々の生活を十分にサポートできないのではないかという不安が募りました。もし私が先に倒れてしまった場合、施設を継続して運営できる体制を確立しなければ、これまでの努力が無駄になってしまうと考え、M&Aを決意しました。介護士や看護師などケアの担い手不足は深刻化しており、将来を見据え、自社だけでは今後の事業展開、施設拡大は難しくなるだろうと考えたこともM&Aを決めた理由の一つです。

譲渡先のお相手に求める条件を教えてください。

従業員の雇用維持、そして入居者の方々が安心して生活を継続できること。この2点が、譲れない条件でした。従業員が残ってくれれば、サービスの質を維持できると考えたからです。

日本ホスピスホールディングス様に決められた決め手を教えてください。

ファミリー・ホスピス株式会社 取締役 (旧:ノーザリ―ライフケア株式会社 代表取締役社長)小林 英一氏
小林英一氏

最終的に4社とお話をさせていただきましたが、他の会社は重症の方のケアに積極的ではありませんでした。人工呼吸器をつけている方の対応は難しいというお話もありましたが、日本ホスピスホールディングス様は、人工呼吸器をつけている方も積極的に受け入れ、最期までサポートするという方針をお持ちでしたので、ぜひお話を聞いてみたいと思いました。
また、日本ホスピスホールディングス様と話をする中で、他ではできないことをやりたい、他に代われない施設を作りたいという思いが共通していたことも、譲渡の決め手になりました。

従業員の方へ譲渡のお話されたときどのような反応がありましたか?そして、M&A後の現在はどのようなお声が聞かれますか?

現場の従業員には大きな抵抗はなかったものの、幹部の一部には当初、戸惑いが見られました。「経営は順調なのに、なぜM&Aという道を選ぶのか」という疑問や、将来への不安もあったようです。私自身、彼らにすべてを託せたらという気持ちもありましたが、事業を維持・拡大していく上で不可欠な、制度変化への対応や資金繰りといった経営責任を担ってもらうのは負担が大きすぎると判断いたしました。

現在はどのように事業に関わられていますか?

現在は北海道の施設全般を見ており、新規開拓などにも関わっています。幹部人材の育成や目標数字の管理なども引き続き私が担当しています。できることをやりながら、事業を軌道に乗せるために、みんなで知恵を出し合っています。

M&Aのシナジーとして特に効果を感じておられることは?

建物を建てるノウハウが豊富だったことです。M&A前は、資金調達からすべて自分で行わなければなりませんでしたが、日本ホスピスホールディングスには独自のノウハウがあり、スムーズに施設を建設することができました。
新規施設は、年間2施設くらいのペースで建設しています。現在も建築中の施設があり、3月8日には新しい施設がオープンしました。今年の12月にもオープン予定の施設があります。ホールディングスからは、最終的に北海道で15施設から20施設くらいまで増やしたいと言われています。

M&A後の業績の推移についてお聞かせください。

おかげさまで業績は3倍以上に成長しています。どの施設もほぼ100%の入居率を維持しており、毎月予算を達成しています。グループ全体でも、北海道だけが達成している状況です。

なぜこれほどの成長が実現できたとお考えですか?

以前のやり方をそのまま継承していることが大きいと思います。介護業界は、収入の入り口が一つしかないことが多いのですが、弊社は複数の事業所を併設し、様々な柱を持つことで、リスクを分散しています。また、介護保険も医療保険も、10円からの積み重ねです。100万円不足している場合、100万円を一気に稼ぐのではなく、10円単位で積み上げていくことを意識しています。

M&A後に感じられる変化をお聞かせください。

ファミリー・ホスピス株式会社 取締役 (旧:ノーザリ―ライフケア株式会社 代表取締役社長)小林 英一氏
小林英一氏 現在の社名はファミリー・ホスピス株式会社

気持ちが楽になりました。以前は、常に資金繰りの不安がありましたが、今は安心して事業展開に取り組めます。自社の内部留保が少しでも減ると、不安で眠れないこともありましたが、今はそのようなことはありません。サラリーマン時代に戻ったような感覚で、やりたいことをやれば良いという気持ちで進んでいます。

ALSなど難病ケアの地域展開について、どのようなビジョンをお持ちでしょうか?

介護の担い手が不足しており、在宅型の訪問事業所は疲弊しています。訪問事業所の利益率は低く、自転車操業のような状況です。そのため、在宅で生活している難病患者の方々は、十分なケアを受けられず、生活に困っている方が多くいます。今後は、もっと選択しやすく、費用も抑えた形で、ケアだけを担保し、以前と変わらない生活を送れるような形を作りたいと思っています。

今後は買い手としてM&Aを検討されているとのことですが、どのような企業との連携を考えていらっしゃいますか?

働き手を確保するのが難しくなっており、せっかく仕事を覚えても、辞めざるを得ない理由がある方もいます。そのような方がいれば、その事業を受け入れ、うちで働いていただきたいと考えています。
特に、在宅系の事業所は厳しい状況にあるため、この仕事を続けたいという方がいれば、積極的に受け入れたいです。
北海道在住の方々は地元での就業を希望する傾向が強いため、当社では北海道での安定した生活を支える給与水準と、安心して働ける職場環境の提供に注力しています。

M&Aを検討している経営者の方へのアドバイスをお願いいたします。

ファミリー・ホスピス株式会社 取締役 (旧:ノーザリ―ライフケア株式会社 代表取締役社長)小林 英一氏
ノーザリーライフケアの創業者で、現在はファミリー・ホスピス株式会社の取締役を務める小林英一氏(左)と当社北海道営業部長の小林尚希

素晴らしい事業を始めても、経営者自身の年齢や体力には限界があります。始める時に、どのような形で終わるかを常に考えておくことが大切です。早くても遅くても、良い会社や相手がいれば、時間をかけて関係を築いていくことが大切です。
相手のやっていることを理解し、自分のやっていることを理解してもらうことから始まると思います。決して、お金だけが残れば良いとは思いません。始めた以上は、残さなければ、繋げていかなければ、自己満足で終わってしまうのではないかと思います。自己満足にしないためには、M&Aという選択肢もあるということを、頭に入れておくと、少しは気持ちが楽になるのではないでしょうか。

本日はありがとうございました。

M&Aアドバイザーより一言(小林 尚希・北海道営業部長談)

ストライク小林

事業譲渡についてご相談いただいた当初、ノーザリーライフケア様の事業そのものは順調に推移しておりました。しかし、後継者不在や健康上の不安、事業の成長発展を考慮し、譲渡を検討する理由が複数ありました。

業界としては、ALSや筋ジストロフィーに対応できる医療施設が不足しており、患者が満足のいく介護を受けられる体制が整っていないという課題がありました。小林様は、この難病に対して人生をかけて対応する志を持っていましたが、看護師や介護士の採用と定着に苦労し、施設を展開するリソースが不足していました。

日本ホスピスホールディングス様とのM&Aにより、施設の展開が可能となり、良いお相手に巡り合えたことを、本当に良かったと思っています。M&A実行から3年が過ぎ、小林様とのご面談で、M&Aを振り返った際、「金額条件だけで相手を選ばなくて良かった」とおっしゃっていたのが非常に印象的でした。

日本ホスピスホールディングスの高橋社長とも密に連携を取られているからこそ、シナジーが出ているのだと思います。ノーザリーライフケア様と日本ホスピスホールディングス様のM&Aの成功を考えるうえで、非常に大事なことを教えていただけたと思います。今後も両社の発展を祈っております。

2025年7月公開

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