2025年7月時点

介護業界の最新動向や課題、M&A事情について、M&A仲介のプロであるストライクの専門コンサルタントが解説いたします。
監修者

木村 郁哉
大学卒業後、政府系金融機関に入行。中小企業向けの法人融資を中心に業務に従事。その後、介護福祉業界に特化をしたM&A仲介会社に転職し、介護業界を中心に多数の成約実績を重ねる。ストライクへ入社後も引き続き介護福祉業界を中心に、ヘルスケア業界全般のM&Aを手掛けている。
介護業界とは
介護業界とは、高齢者など日常生活に支援が必要な方にさまざまなサービスを提供する業界のことです。医療・福祉産業のなかでも利用者一人ひとりへの対応が求められる「サービス業」に分類されます。大別すると、以下の14種類となります。
- 1. 特別養護老人ホーム(特養)
- 2. 介護老人保健施設(老健)
- 3. 介護付き有料老人ホーム(特定施設)
- 4. 住宅型有料老人ホーム
- 5. 小規模多機能型居宅介護
- 6. グループホーム(認知症対応型共同生活介護)
- 7. 訪問介護
- 8. 訪問看護
- 9. 通所介護(デイサービス)
- 10. 居宅介護支援
- 11. 短期入所介護(ショートステイ)
- 12. 福祉用具貸与
- 13. ケアハウス(軽費老人ホーム)
- 14. サービス付き高齢者向け住宅 等
介護業界の市場規模
出典:厚生労働省「令和5年度 介護給付費等実態統計の概況」統計表6をもとに株式会社ストライクが作成
※小数点第2位以下切り捨て
国内の介護業界の市場規模は、年々増加しています。厚生労働省の統計発表によると、2023年度の介護費用(介護給付費・自己負担)総額は前年度から約3,227億円増加し、11兆5,139億円と過去最高額を更新しました。
背景にあるのは、急速に進む高齢化です。65歳以上の被保険者は2000年に2,165万人から2023年に3,623万人と、1.7倍増加しています。要介護認定者やサービス利用者も準じて増加しており、今後も市場規模の拡大が見込まれています。
現在の介護業界が抱える課題
現在、介護業界はさまざまな課題を抱えています。
人材不足
昨今は少子高齢化の影響によりどの業界でも人材不足が課題となっており、介護業界もその影響を大きく受けています。介護業界を希望する人の割合が限られているなか、どのように人材を確保していくかは中小問わず苦戦している状況です。背景には、働く環境の改善や、介護職の体力的・精神的負担が給与や待遇に反映されにくいという側面があります。
現状では、外国人の特定技能者を受け入れるなどの工夫をしている事業所が多くなっています。
社会保障費の増加に伴う介護保険単価の低下
社会保障費の増加に伴い、財源不足が深刻化しています。財源不足によって、介護報酬の引き下げや、サービス内容の制限につながる可能性があります。
現在は3年に一度介護報酬の改定が行われており、介護報酬改定によって引き下げが行われると、売上も下がる構造です。特に、事業所数が少ない場合は経営状況の悪化に直結しています。
食材費、光熱費の高騰
物価高が深刻化するなかで、食材費、光熱費の高騰も介護施設の運営に大きく影響しています。また、人材不足から調理スタッフの人件費も高騰しています。
事業所数が多い方が、食材の仕入れや人員の募集などにおいて、全体のコストを下げやすい構造(スケールメリット)があります。
介護業界におけるM&Aの状況
出典:株式会社ストライクによる集計データ
※上場企業の適時開示ベース、経営権の移動を伴うものを対象に集計
介護業界では、事業者が事業を継続しやすく、また新たな事業の可能性を広げるための手段として、M&Aが注目されています。M&A Onlineの統計によると、介護・福祉の企業を買収対象にしたM&Aは2024年度41件で、2020年から連続して増加となっています。
なかでも有料老人ホームなどの施設や福祉用具レンタル事業では、取引が活発に行われています。
介護業界のM&Aのメリット・目的
介護業界のM&Aにおける譲渡側、譲受側双方のメリットや目的を解説します。
介護業界のM&Aにおける譲渡側のメリット・目的
譲渡側のメリット、目的としては、主に以下が挙げられます。
- ・引退・後継者探し
- ・経営不振(資金調達や採用の難航など)
- ・経営疲れ(資金繰り・シフト調整・減額改定など)
- ・経営資源の確保や効率的な経営
- ・本業回帰
経営者が引退を考える年齢となり後継者が見つからないケースでは、事業を継承する選択肢としてM&Aがあります。また、介護事業では人的コミュニケーションが多いため、年齢に限らず経営疲れに陥り、後継者探しを検討するケースも多く見られます。現場の調整や資金調達が難しいことから、M&Aによる課題解決を求めることもあります。
さらに、介護事業だけを一部切り離したいといった本業回帰や、大手企業の傘下に入りより成長するという目的のM&Aも増加傾向です。
多角経営の例として、建設業と介護事業を兼務しているケースなどがあります。
介護業界のM&Aにおける譲受側のメリット・目的
- ・事業規模の拡大(ドミナント経営)
- ・事業成長のスピードアップ
- ・新規事業の開拓・成長戦略
- ・公募枠の取得(公的な介護サービス提供に必要な許可や免許)
- ・M&Aによる相乗効果(シナジー効果)
- ・新規店舗立ち上げの効率化(採用など)
譲受側のメリットは、事業規模の拡大や新規事業の開拓につながる点などがあります。異なるエリアへの参入は公募枠の取得が必要なため、M&Aによってエリアの拡充が見込めます。また、すでにサービスを立ち上げている会社を引き受けることで事業成長のスピードアップにつながっています。
施設運営のみだった会社が在宅のサービスも展開するなどの流れが多くあります。異業種参入もありますが、介護・医療周辺事業や障害・保育などの関連事業からの参入・提携がより増えている状況です。介護+医療の枠組みで受け入れているナーシングホーム、ホスピスなどは特に譲受企業からのオファーが多い状況です。
介護業界のM&Aの注意点
M&Aを行う上での注意点は、主に以下の点が挙げられます。
許認可の引き継ぎ
株式譲渡や会社分割では、基本的に許認可の引き継ぎが可能ですが、事業譲渡では引き継がれないため、原則許認可を取り直さなければなりません。許認可の再取得をする際、業種に必要な人員基準、施設基準等を満たしているか注意が必要です。基本的に人員はそのまま引き継ぐ形となりますが、時には譲渡時に退職者がでるケースもあり、M&Aの手続きと並行して採用募集も行うなどの対応が必要となります。
過去の行政指導等の内容
また、介護報酬の返戻事例やルールからの逸脱など、過去の行政指導等の内容を確認することも重要です。行政からの指摘事項や、シフト表を調査し人員が適切に配置されているかなどを確認します。
補助金の利用有無
補助金の利用有無は、譲渡金額等の諸条件に影響を与える可能性があり、留意する必要があります。介護施設を建設する際に補助金が使われていた場合、譲渡後に補助金分の返金が発生するなどトラブルになるケースがあります。過去に受けた補助金については、M&Aを進めるなかでクリアにしていかなければなりません。
介護業界のM&A事例3選
介護業界での近年のM&A事例をご紹介します。
介護業界のM&A事例①
■事業拡大、エリアの補填
譲渡会社 訪問介護・デイサービス(東京都)
譲受け会社 介護・障害福祉サービス(埼玉・千葉)
介護・障害福祉サービスを手広く展開する年商30億円の企業が、訪問介護・デイサービス・居宅介護支援などを行う年商2.5億円の企業とM&Aを行った事例があります。介護事業拡大、エリア補填を目的としており、埼玉、千葉の一部で展開していたところ、東京の一部エリア一体をカバーできるようになりました。
介護業界のM&A事例②
■事業拡大
譲渡会社 介護付き有料老人ホーム(東京都)
譲受け会社 介護施設運営(東京都・神奈川)
東京都で介護付き有料老人ホーム1施設を運営する年商3億円の事業所が東京都、神奈川で350以上の介護施設を運営する年商300億円の企業に譲渡を行いました。譲受企業ではすでにM&Aの実績が多くあり、今回は介護付き有料老人ホームの事業拡大を目的としています。
介護業界のM&A事例③
■エリアの補填
譲渡会社 福祉用具販売・貸与事業(長野県)
譲受け会社 介護施設運営(長野県・北関東)
長野県で売上約2.5億円の福祉用具販売・貸与事業の会社が、長野県を中心に新潟・群馬・埼玉・栃木で幅広い介護事業を展開する年商100億円の企業に事業譲渡を行いました。長野県内での福祉用具販売・貸与事業におけるエリア拡充が行われた形です。
介護業界のM&Aにおける今後の予測
介護業界全体で、業界の再編・集約が見込まれています。人材不足や費用高騰の影響を受け、単体の事業所だけで経営を続けていくのは難しい状況となっており、経営統合が進んでいます。
さらに、2024年度の介護報酬改定では「介護職員等処遇改善加算」が一本化され、加算額の半分以上を月額賃金の改善に充当するルールが設けられました。これにより、事業者がM&Aを通じて経営基盤を強化し、処遇改善加算や補助金を活用して職員の賃金・手当を引き上げる動きが加速しています。
件数として多いのは、中小規模の企業が規模の大きな企業に譲渡するケースです。介護事業に参入した大企業の、切り離し(カーブアウト)も増えてきています。また、規模拡大のための人事制度整備や資金調達をすすめるために、投資ファンドと組んで成長戦略を描くといった動きも進んでいます。
専門家にM&Aを相談するメリット
- 高齢化による需要増
- 人材不足の深刻化
- 介護報酬引き下げの影響
介護業界のM&Aでは、許認可の有無、人員基準や補助金制度など、介護業界ならではの確認事項や注意すべき点が多くあります。業界に精通したコンサルタントにM&Aのサポートを依頼することで、注意点の洗い出しができ、スムーズなコミュニケーションを行えます。
コンサルタントに相談することで、自社が知りえない企業とのマッチングが期待できる点もメリットです。知名度のある大手企業だけでなく、地場で着実に成長を続けている譲渡先ともつながることができます。
また、相対ではなく複数の候補先と交渉することで、好条件の売却を行える可能性があります。
株式会社ストライクでは、介護業界に深く精通しており、あらゆる業種に対応できる専門のコンサルタントが担当します。事業者様の悩みや課題に真摯に寄り添い、候補先選定から交渉、契約締結まで真摯にサポートいたします。
ストライクのM&Aコンサルタント

ヘルスケアグループ グループリーダー
箕浦 悠
大学卒業後、大手金融機関にて中小企業向けの法人営業に従事し、中小企業の課題解決に向けて取り組む。2018年、ストライクに入社、M&Aコンサルタントとして介護医療業界を中心に数多くの成約実績あり。現在、当社におけるヘルスケアグループの責任者として、M&Aを通じて全国の介護事業者、医療法人の課題解決に向けて活動している。

木村 郁哉
大学卒業後、政府系金融機関に入行。中小企業向けの法人融資を中心に業務に従事。その後、介護福祉業界に特化をしたM&A仲介会社に転職し、介護業界を中心に多数の成約実績を重ねる。ストライクへ入社後も引き続き介護福祉業界を中心に、ヘルスケア業界全般のM&Aを手掛けている。

的場 陽平
大学卒業後、大学病院を中心に委託業務(設備・警備・医療事務・院内滅菌・清掃など)の実務を経験。病院移転・新築時におけるコンサルティング、医療機器等販売業務に従事。活動していく中で、地域医療の維持・発展におけるM&Aの重要性を実感しストライクに転職。ヘルスケア関連業界に特化した活動を行っている。

末増 将大
大学卒業後、ヘルスケア領域専門のM&Aコンサルタントとして、医療法人・介護事業者の譲渡法人様を中心に課題解決に向けた活動を行い、病院や老健施設、介護事業者様など、複数の医療・介護案件を担当し、ご成約まで至る。現在は介護チームの一員として、介護事業者様の承継支援を中心に活動している。
介護業界におけるストライクの実績
成約インタビュー

震災を乗り越え、地域医療を未来へ繋ぐ
~医療法人財団愛生会 浜野介護医療院の事業承継~
事業を継続するために、自分たちだけで抱え込まず、信頼できるコンサルタントに巡り合うなどいろいろな人に頼ることが大切だと思います。

医療介護の未来を拓く戦略的統合
地域に根差した包括ケアの実現へ
M&Aは、既存の人材やネットワーク、入居者基盤を活用できる点で、時間を買う意味合いがあり、非連続的な成長を実現できる手段です。

地域医療の要となる病院・介護施設を承継
グループの力を活かし
経営マネジメントの向上に寄与
経営者の高齢化も進む中、医療業界を発展させていくには、M&Aによるグループ化を進めることが必須になっていくと思います。
成約実績
2025年5月
譲渡会社
介護・医療
所在地:関西
譲受け会社
介護・医療
所在地:関西
譲渡理由株主利潤の獲得
M&Aスキーム株式譲渡
2025年5月
譲渡会社
介護・医療
所在地:関西
譲受け会社
教育・コンサル
所在地:関東
譲渡理由後継者不在
M&Aスキーム事業譲渡